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「嘘じゃない。こうしてこの場にいることが何よりの証拠だろ」
「いやまぁ、そりゃそうだけど……」
ロビンは言葉を詰まらせた。ここまできて漸くノアの心に後悔の色が広がる。いつもそうだ。自分の正当性を訴えて、相手を困らせてしまう。そして手遅れになってから、自分の愚かさに気付く。カッコ悪い自分。自覚はあるのだ。今回もつい勢いで言いくるめてしまったが、ロビンの言い分が正しいことをノアは理解している。
でも、どうしたらいいのか分からないのだ。人間の心は複雑で、機械のように調整は出来ない。それならばいっそ迷いもなく生きられればいいのだが、ノアはそこまで強くなかった。羨ましかった。自分とは違う人々が。柔軟で器用なその生き方が。
喉を強張らせるノアの頭上で、黙ったまま突っ立っていた男が口を開いた。
「話がよく分からないんですが、嫌ならいいですよ。無理強いはしたくないので」
「えらくあっさりしていますね。彼のことはもういいんですか?」
ガブリエルが目で指す。男は肩を竦めて微笑んだ。
「出直します。今日じゃなくちゃいけない訳じゃないし」
「彼は滅多にここに来ないぞ」
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