Evolve

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 ヨハンの言葉に男は動揺してみせてから顎に手を添え、考え込む仕草をした。冗談のつもりかと思ったが、その表情があまりにも真剣だったので、ノアは男に少し興味を抱いた。どうして声をかけて来たのか、その理由を聞いてみたい気がしないでもない。 「よし分かった。ノア、席を外しても構わないぞ。俺たちのことはいいから、そこのカウンターで飲んでこい」 「えっ!?」  思わぬ展開にギョッとした。見ず知らずの人間とこんな場でいったい何を話せというのか。それに席を離れてしまっては、酒に慣れつつ仲間と親交を深めるという目的から逸れてしまう。 「しかし折角中尉に呼んで頂いたのに、」 「俺たちはまたいつでも時間を合わせられるから大丈夫だ。それに、違う組織の人間と話すのはいい刺激になるぞ」  どうやら断れそうにない。早々に諦めて「分かりました」と答えれば彼は満足気に頷き、こんな事になった原因の人物へ視線を滑らせた。 「ところで君も軍人だろ。仲間を預ける立場として、所属と名前くらいは聞いてもいいか?」 「陸軍特殊部隊ソード分遣隊所属グレン・ベル一等軍曹です」 「へぇ、ソード隊員か」とヨハンは感心してから続ける。「俺は騎士軍中尉のヨハン・スミス。で、こっちがノア・ベイリー少尉な。酒は飲めない性質だから、ほどほどに頼むよ」  背中を叩かれてノアは仕方なく席を立った。少し上にある視線に促され、グラスを手にテーブルを離れる。カウンター席に掛けるや、グレンは酒を注文した。     
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