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不思議な感覚だ。仕事以外で、知らない人とこうして肩を並べて座っていることが未だに信じられない。ここにいるのは本当に自分なのかと疑ってしまいそうだ。
「本当に嫌だったら、断ってもいいんですよ」
鼻先に掲げたグラスに向かってグレンは呟いた。強張った横顔からは真反対の意思がありありと伝わってくる。随分と顔に出やすい性質らしい。本当に特殊部隊の人間か?
「上官にああ言われてしまえば、断ることは出来ませんから」
ずばり答えてからすぐに後悔した。頭の中でロビンが「他に言い方ってもんがあるだろ」と怒っている。
言い方を間違えた。こういう場に慣れていないだけで、嫌だというわけではないのだ。そう伝えたいのに、咄嗟に言葉が出て来ない。口籠るノアに対し、グレンは少しも嫌な顔をせずに「そりゃそうだよな」と笑って頷いてみせた。
今まで、呆れられたり、引かれたり、苛立たれたり、可笑しいと笑われたりすることはあった。だがこんな風に同意されることは滅多になかった。
少し驚いた。彼の反応は新鮮だった。
「でもあなたには申し訳ないけど、俺は上官殿に感謝していますよ。合計で10日、ここに通った甲斐がありました」
「……それは私に会う為に、ですか?」
「もちろん」
間髪入れずに答える。
「目的はなんですか」
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