Evolve

54/199
前へ
/201ページ
次へ
 躊躇いもなく問えば、グレンは内ポケットから一枚の紙片を取り出した。新聞の切り抜きと思われるそれを広げる。見覚えのある光景が映っていた。 「これはあなたですよね?」  グレンが写真を指差した。ノアは頷いた。しかし、自分で言うのもなんだが、随分と陰気な表情である。他のメンバーが真顔でありながらどことなく華やかな印象を与えるのに対し、ノアはまるで戦地で歩哨に立つ兵士のような雰囲気だ。任務内容には合致しているが、パーティー会場に立つ騎士軍人としてはダメだろう。 「この写真に写るあなたを見て、一度会ってみたいと思ったんです。それで若い騎士軍人がよく集まっているというこのバーで、その、あわよくば、会えないかって……」  精一杯言葉を選んでいるようだが、要するに待ち伏せだ。自覚があるらしく、グレンは徐々に言葉尻を窄ませた。 「すいません、気持ち悪いですよね」 「否定は出来ないですね」  正直に答えると、これには流石にショックを受けたらしい。俯いて酒を睨んでいる。まずいな、気を悪くしただろうか。いくらストーカー紛いの男だったとして、上官に飲んで来いと言われた以上、ここで怒って席を立たれると困る。とはいえ、気の利いたフォローの言葉などまったく出て来ない訳だが。     
/201ページ

最初のコメントを投稿しよう!

118人が本棚に入れています
本棚に追加