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だがいつも通りでは駄目なのだ。変わらなくては。会話を終えた後、すっきりとしない気持ちを抱えて思い悩むのは嫌だ。
「それで、感想は?」
最後の一口を流し込む横顔に問い掛けた。少し驚いてみせる表情に酒の影響は出ていない。ウイスキーのロックを水のように飲むとは。相当酒に強いらしい。
「困ったな……感想を訊かれたのは初めてだ」
「私も初めてですよ。感想を訊いたのは」
ノアも負けじとワインを胃に流し込んだ。喉が焼けるような感覚を乗り切ってから、バーテンダーに「彼と同じものを」と頼む。
「綺麗だと思いましたよ。写真で見るよりもずっと」
逃げるように逸れていた目がこちらを向いた。まっすぐに視線が交わって、ハッと気がつく。
「もしかして、私のこと口説いてます?」
グレンは声を上げて笑った。近くで飲んでいた2人連れがギョッとした顔でこちらを見たので、詫びるように軽く頭を下げてから、今度は喉で押し殺すようにひっそりと笑う。
ノアには見慣れた反応だった。不快を露わに顔を顰めると、彼は慌てたようすで顔を上げた。
「いやぁ、真っ向からそう聞かれるのも初めてで、当然驚いたけど、俺の下心なんてとっくに気付いていると思っていたから」
「……気付いていたら、わざわざ目的や理由なんて聞かないですよ」
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