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いつものノアであれば「褒めてくれてありがとう。でも信念と努力とちょっとした執念と環境があれば誰でも騎士軍に入れるんだぞ。羨ましがってないで努力しろ」といった言葉を出来る限りオブラートに包んで言ってやるところだが、グレンに言う気にはなれなかった。というか、この国一番の戦闘部隊に所属する男に「努力しろ」なんて言えるはずがない。
「そう思っているなら、もっと羨ましそうに言ってくれよ」
「うーん、ちゃんと羨望を込めて言ったつもりなんだけど」
わざとらしく首を傾げて呟いてから、グレンはいつのまにか空になっていたノアのグラスを指した。
「早いな。ペースを落とした方がいい」
3杯目をすでに半分まで減らしている人に言われても説得力がない。ノアはバーテンダーを呼んでカクテルを注文した。
「何にしますか?」
バーテンダーが人当たりのいい笑みを浮かべて問い掛けた。名前と味わいが一致するカクテルなど殆ど知らない。そういえば、小説に登場して有名になったカクテルがあった気がする。昔読んだことがあるはずだが、なんて名前だっただろうか……。
思わずノアが黙り込んだ隙を見て、グレンが「ちょっと待て」と割り込んだ。
「1杯目がワインで2杯目がウイスキーで次がカクテル? 正気か? やめておけよ。痛い目見るぞ」
「平気だ。今日は調子がいいんだ」
強がりではなかった。多少の酔いは認めるが、程よく肩の力が抜けるような気分でえらく心地がいい。「酒が飲めない」と言い切ったヨハンを鼻で笑ってやりたい気分だ。
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