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「そう勘違いしているだけだ。口当たりが変わって進みが速くなっているだけで、許容限界は変わっちゃいない」
「随分と食い下がるんだな。酔わせた方が都合が良いんじゃないのか?」
「失礼なことを言うな。君の上官に、ほどほどにするよう頼まれたんだよ」
「スミス中尉が決め付けているだけだ。私はまったく飲めないわけじゃない。必要以上に飲んでこなかっただけだ。だから、自分が強いかどうかも測ったことがない」
この短時間で癖になってしまったのか、つい無意識に空のグラスに口をつけてしまい、ガッカリしながらバーテンダーを見た。呼んでおきながら目の前で揉めはじめる客に対しても笑みを絶やさない。見習いたいものである。
「名前が思い出せないんです。小説に登場した、有名なカクテルのはずなんですが……」
「ギムレットですね」とスペシャリストは即答した。きっとこういう客が多いのだろう。
「ああ、それです。それをください」
「正気か?」
そう聞かれるのは2回目だ。ノアは無視して、バーテンダーがシェークする様を見つめていた。カウンターに淡い緑色の液体が注がれたカクテルグラスが置かれると、グレンはさすがに諦めたようだった。
「頑固な奴だな。出世しないぞ」
「よく言われる」
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