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薄く笑みを浮かべて大きく一口飲んでから、すぐに後悔した。噎せて吹きだしそうになるのを必死に堪えて飲み下す。ほんのりとした甘みは伝わってきたが、それ以上に舌を刺すような辛い飲み口だ。なるほどギムレット(錐)という名前に相応しい酒である。
そんなノアの様子を横目に、グレンは涼しい顔でグラスを空にしてから「ミモザ」を注文した。グラスに注いだ材料を軽く混ぜて提供される。見た目は完全にオレンジジュースだ。
人には正気かと尋ねるくせに、自分も種類を変えるんじゃないか。そう訴えるように見つめると、何を勘違いしたのかグラスを差し出された。
「こっちにしろよ。そんな渋面で飲まれちゃ酒が可哀想だし、バーテンダーにも失礼だろ」
正論だ。返す言葉もなく唇を噛んで黙っていると、急に巻き込まれたバーテンダーが「度数が高い酒が『いいお酒』という訳ではありませんしね」と苦笑した。
「……でもまだ残ってるし、」
「寄越せ。俺が飲む」
えっ、と戸惑っている内にグラスが取られた。ムキになって取り返すのも馬鹿らしいので、仕方なくミモザに口をつける。甘くて飲みやすい。シャンパン風味のオレンジジュースといった感じだ。
「美味しいな」
「だろ? 他にももっとあるぞ、飲みやすくて美味いカクテルは。バーテンダーに頼めば君の好みに合わせて作ってくれるから、任せりゃいい。だから、飲むなとは言わないから、無茶な飲み方はやめてくれ。泥酔されちゃ困る」
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