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「親が酪農家なんだ。俺が学生だった内からもう兄貴が継いでて、俺は高校を卒業したらすぐにその手伝いをする予定だった。安定して儲かってたみたいだし、昔からちょっとした手伝いはしていたから慣れたもんだし、客観的に見ていい将来だったと思うよ。けどもっと他に、なんとなく流されるままにやるんじゃなく、死にもの狂いになって頑張れる仕事があるんじゃないかと思って、時間稼ぎに大学へ通った。それで、在学中に友だちと射撃場へ行ったときに射撃を褒められて、軍を勧められたのが最初のきっかけだったな。それで、目指すからには一流をと思って、ソードになろうと決めた」
そう言ってからグレンは「ああ、言っておくが、他の部隊が二流だと思っているわけじゃないぞ」と付け加えた。
どの分野も極めれば一流だ。だがそれでは足りない。一流でなければソードには入れない。精鋭のみを集めるから特殊部隊なのだ。
なろうと決めたからといって、そう易々となれるものではない。きっとグレンは向いていたのだろう。
「それに、特殊部隊に入らないと内地勤務で下手したらデスクワークだぞ。せっかく軍人になったのに、一度も戦場に立たずに退役なんて冗談じゃない」
「そっちが本当の理由なんじゃないか」
ノアは思わずクスッと笑った。つられるようにグレンも笑う。
「軍人なんてそんな奴ばっかりさ。毎年ヴァルキリー志願者が多いのが何よりの証拠だろ。その分、落伍者も多いけど」
「しかしヴァルキリーに入っても、運が悪ければ一度も敵を撃つことなく軍役を終えることもあるそうだが、君はどうだった?」
面白がって問い掛けると、グレンは表情を曇らせた。柔らかく微笑んでいた口元が重く閉ざされる。
「どうかしたか?」
「あー……いや、なんでもない」
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