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わたしは、わたしの言葉が届かないことを知っている。
正確には、届かない相手がいるということを承知している。
今の彼女たちのように。難しいことは言っていないのに、どうも伝わらない。それが何故かは分からないけれど、別に気にしたりもしていない。
伝わらない、届かない、そんなときの対処法はこれしか知らない。
「店長にお世話になりましたと、気が向いたら伝えてください」
センスの悪い、普段使いに向かないヒールまで買い取ることにしたのは、肩甲骨の下、肘を乗せるにはこの高さが必要だったから。
多分もう履かないのに。もったいない。
きちんと頭を下げて言い終えてから、ぴょん、と跳ぶ。例え言葉の通じない相手でも礼儀は大切だ。
蹴られた鉄骨が遅れて鳴った。
そこからは、少しだけスローモーション。
腰掛けた手すりから夜空を仰ぐ。
この瞬間に靴が脱げたらいいのに、なんて思ったけどそんな器用なことはできないから仕方ない。
頭、背中、腕、お尻、脚、細い鉄の手すりをブルーのカクテルドレスが滑る。
この下はゴミ捨て場。コンクリートじゃない。くるりと空中で一回転、着地に向けて足を伸ばして、尻餅の準備。
ここまでは上出来だったのに。
盲点。
やっぱりヒールは脱いでおくべきだった。ゴミ袋に刺さるくらいは覚悟したし、足首を捻ることもいたしかたない。だけど、それ以外の事態は予想してなかった。
「退いて退いて退いてーーー!!」
まさか。人がいるなんて、いたしかたないじゃ済まされない。
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