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(……これで課題はクリア。良かったです)
この時の私は一切気付いてはいなかったのですが、
まだこの頃の私は僅かに自我が残っていたようです。
白犬と共に過ごしている内に、私は口元を緩ませる時間が少し増えていたような、そんな気がするのです。
そして私はあることを思い付きました。
課題の期限は一ヶ月。
私は二週間ほどでクリアできたので、後二週間は期間が残っていることになります。
これまでは芸を覚えさせることで手いっぱいだったので気付きませんでしたが、
一日中一緒にいる以上、呼び名が必要なのではないかということに。
(うーん……どうしましょう)
とはいえ記憶がない自分の中にネームの引き出しはなく、迷ってしまいます。
でもそんな時、私の脳裏に一つの言葉が思い浮かびました。
(シャリテ……。っ!)
それと同時に針を刺すような痛みが頭に一瞬だけ発生し、私は顔をしかめます。
一瞬だけでしたので、私は直ぐに気持ちを取り戻し、白犬の方を見ます。
「シャリテ……。あなたは今日からシャリテですっ」
「わんっ」
シャリテとなった白犬は返事のような鳴き声をあげ、尻尾をパタパタと横に振る。
私は屈んでシャリテに顔を近づけ、再び名前を呼んであげます。
「シャリテ」
シャリテは再び鳴き声をあげ、私の頬をペロペロと舌で舐めました。
それがくすぐったくて、私は記憶する限り初めて声を出して笑いました。
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