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何故、犬の躾け如きに一ヶ月もの時間を与えたのか。
私はその理由を悟りました。
全ては敢えて時間を掛けさせることで、愛着を沸かせる為だったのです。
愛着が沸けば、当然「殺せ」なんて指令は受け入れられなくなります。
ですが、ゴルグが求めているのは命令を忠実にこなす意志なき操り人形。
愛着などという私情を無視して残虐な行為をこなせる者。
これが、これこそがあの人の狙いだったのだと。
「無理だ! そんなの出来ないよ!! この子を殺すなんて!」
一人の子が犬を抱き締めながら大声で否定の言葉を訴えかけます。
それを聞いたゴルグは、冷めた眼で一瞥し、
「貴殿は必要なくなった。連れて行け」
そう告げた。
すると所員の人間が二人がかりでその子を引きずるようにして強制的に連れて行ってしまいました。
これまでの課題をクリアできなかった子たちは、このようにして広間を出て行き、二度と姿を見せることはなかったのです。
どのような目に遭ってしまうのか、一切分かりませんが……。
どの道、身寄りもいない私たちはここ以外で生きていくことなどできないのです。
だから私は……。
私、は──。
「シャリテ……」
「わう?」
名前を呼ばれたシャリテは事情を知らず、可愛い表情で首を傾げるような仕草をしました。
それがより躊躇を強めてしまいます。
私には家族の記憶がない。
生んでくれた母親のことも、育ててくれた父親のことも、いたかもしれない兄弟のことも。
何も覚えていないのです。
だからこそ、たった一ヶ月とはいえずっと一緒にいたシャリテは、
私にとって初めて出来た家族なんです。
それを……それを殺すなんて……。
(殺すくらいなら、私もさっきの子と同じように……)
なってしまうのも良いかもしれない。
脳裏に、そんな考えがよぎりました。
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