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しかしそんな時、私の中にある数少ない記憶の一つが強制的に呼び起こされました。
それは私が思い出せる一番最初の記憶。
研究室のような部屋のベッドの上で目覚めた私に、ゴルグ=ラインソールが告げた言葉。
「この後、数多の孤児の中から吾の養子にする者を選定する施設に貴殿も行ってもらう。貴殿には期待している。必ず、生きて吾の元に戻ってくるがいい」
訳が分からない内に言われた言葉。
ですがある程度、状況を理解してきた今の私にとって、その言葉は一つのしがらみのように絡みついています。
「おらっ、死ねえ!!」
次第に、周りの子たちは狂気に駆られた瞳になり、連れてきた犬を殺めて行きました。
孤児たちの叫び、そして犬たちの断末魔。
広間は阿鼻叫喚に包まれて行きました。
課題を投げ出した子たちだけでなく、課題をクリアすることができた子たちもまた広間から去っていき、
残るは数名となりました。
「……」
私はシャリテを前に指一本動かすことすらできず、時間ばかりが過ぎていました。
「残り五分だ。五分後、貴殿らを失敗者とみなす」
ゴルグが最後の勧告を口にします。
そしてこれ以上は滞在の価値なしと見たのか、広間を去ろうとします。
ですが最後、扉によって姿が見えなくなる直前、
ゴルグは私を睨みつけた……ように見えました。
「あの時の言葉、忘れたわけではあるまい」と語るかのように。
「あ……あ……」
そして私はその眼によって、視界が黒く染まっていくような感覚に襲われます。
彼のあの時の言葉が溶け込み、まるで私の意志だったかのように定着していく。
ここで死んではいけない。
そう望まれたから。
この課題は、絶対にクリアしなければならない。
次の瞬間、私はシャリテの首を両手を掛けていました。
手に力を掛け、気道を塞いでいく。
シャリテは鳴き声をあげることなく、私を見続けるのみでした。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
私の顔は仮面のように冷酷な表情のままでしたが、目尻から勝手に涙がポロポロと零れ、謝罪の言葉を何度も繰り返し口にしていました。
そしてシャリテは一切暴れることなく、そのまま息を引き取りました。
その数秒後に課題は終了となり、私以外の子たちは失敗したと見なされ、広間を出て行きました。
私もまた、表情を変えぬまま立ち上がり、よろめきながら与えられた個室へと戻っていきました。
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