NDB─初めて過るその想い

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目の前にいるのは本当に篠槙さんなのか。 だとすれば、どうして生きているのか。 頭の中を駆け巡る疑問に気を取られながらも、私は必死に感情を作りました。 「篠槙さん……生きてて、くれていたんですね」 「心配させて悪かった。……けど、今は詳しい事情を話している余裕はないみたいだ。ここにユリアースがいないって事は、あいつらが奥のサブスタンティアティの連中と戦っているってことだろ?」 私たち四人の無事を確認し、頬を緩ませた篠槙さんでしたが、ここにいない二人の安否を気にし、すぐさま走り去ろうとしました。 そんな彼を見て、私は瞬間的に声を出していました。 「いっ、行かないでくださいっ!」 直後、自分でも驚きました。 何故彼を引き止めるような言葉を口にしたのか。 行かせてしまえば、篠槙さんは恐らく再び莉実さんとデュエマすることになります。 私はまた彼が『闇のゲーム』に敗北してしまうと。死んでしまうと思ってしまったのです。 つまり私の中に、彼に生きていて欲しいという思いが存在するのです。 消したはずの自我が、再び芽生えてきているのです。 「……せっかく再会出来ましたのに……。もう篠槙さんと、離れたくないんです……っ!」 何とか演技を続けてますが、目の奥が熱くなっているのは感情によるものです。 私の言葉を聞いた篠槙さんは一歩歩み寄ってくれました。 「お前にそんな悲しい思いをさせちまった事、本当に悪いと思う。でも俺は一度『死』と体験して変わったんだ」 鉄格子を右手で掴み、篠槙さんは語りつづけます。 「今までの俺は、お前たちが平和の日常に戻れるのなら、俺自身がどうなろうと構わない。そう思っていたんだ。──けど今は違う。全員で生き残る。どんなに無理難題と言われようとも、誰も死なずに済む道を必ず見つけ出してやるってな。……だから力を貸してほしい。俺一人じゃ力不足だからな」 彼の新たな決意を聞いた私は、強まっていく自我が表に出てくるのを感じつつも、それを止めることはしませんでした。 そして嬉しさゆえに溢れる涙を流しながら、肯定の言葉を口に出したのです。 「……はいっ!」
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