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シャリテという単語に私は強く目を惹かれました。
無理もありません。
それは私が養子選定の時にお世話した白犬に付けた名前。
僅かな頭痛と共に頭に思い浮かんだ単語。
それはつまり──。
(シャリテ……これが私の、本当の名前……)
ゴルグの養子となり、ラインソールの姓が与えられる前の本当の姓。
私の本当の名前は、エリーナ=シャリテ。
「うぐ……っ!!」
その瞬間、再び脳に直接刃物を刺されるような激しい頭痛に襲われました。
今までよりもずっとずっと強い痛み。
「ああああああ!!!」
「大丈夫かねっ!?」
ベットの上でのた打ち回る様を見て、ハラマさんが心配する声を上げますが、あまりの激しさに私の耳には入りません。
そして私の意識はプツリと切れるように暗転しました。
──
───
────
『ねえ、エリーナ。今夜は何が食べたい?』
カートを押している母親が、隣で歩いている幼い私に問いかけます。
その私は表情を変えずに、一つの料理名を答えました。
しかし母親は困ったような笑顔を浮かべてしまいます。
『貴女、いつも作りやすい料理ばっかりね。まだ子供なんだから、もっと我が儘を言ってもいいのよ』
母親はそう催促しますが、隣の幼い私はそれを理解できずに首を傾げます。
何故ならこの頃の私は、両親の意志に沿った状態の人形。
二人の望む「良い子」になることだけを目的としているからです。
だから自分から何かを望むという意味そのものが分からなかったのです。
『……でも、ありがとうエリーナ。優しく育ってくれた貴女は私たちの自慢の娘よ』
カートを押すのを一旦止め、母親は私の前でしゃがみ込みます。
そして頭の上に手を乗せ、優しく撫でてくれました。
自我カテクシス欠乏症である私は自らの感情はとても希薄でしたが、
母親に撫でられた幼い私は、僅かに微笑んでいました。
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