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私のお礼の言葉を聞いたユリアースさんは立ち上がりました。
看病をしに来たつもりが、私が起きていたので必要なくなったのでしょう。
「無理はしないで良いが、来れそうなら一緒に食べよう。皆、心配していたからな」
その言葉を聞き、私の心臓が大きく跳ねました。
皆さん。
分かってはいたことですが、夕食に食べに行く際は皆さんと顔を合わせます。
「わかりました」
私の了承の返事は、かすれるような声しか出ませんでした。
既に扉の方へと歩いていたユリアースさんは最後に一度、頷いて微笑んでから部屋を出て行きました。
再び部屋の中に私一人だけが残ります。
ユリアースさんは相変わらず優しかった。
あの人は少し言動がキツいと言われることはありますが、他人を思いやれる良い人なのです。
私の看病も、一番付き合いが長いからと率先して引き受けたのでしょう。
(でもきっと、真実を伝えてしまったら……)
それを考えてしまった瞬間、私の脳内は恐怖と絶望に埋め尽くされました。
そう。私は裏切り者。
レジスタンスの皆さんの仲間のフリをし、情報を流し続けていたサブスタンティアティ側の人間。
今の私がサブスタンティアティに敵意を持ち、離反の意志があるといえどその罪が消えることはありません。
あのユリアースさんでも──
いえ、一番付き合いが長いユリアースさんだからこそ、私が騙し続けていたという事実を知れば、私を憎むでしょう。
きっと、いえ絶対に私は皆さんと一緒に居られなくなってしまいます。
最悪、その場で処刑……もあり得ます。
(私は、皆さんと一緒に居たい……)
そんな思いを叶える為の最後の手段が、私には残っています。
レジスタンスとしてのエリーナ=ラインソール。
操り人形としてのエリーナ=ラインソール。
そして自我を獲得した今の私、エリーナ=シャリテ。
皆さんが知っているのは一番最初だけ。
そして、その私と今の私の目的はサブスタンティアティの崩壊・そしてゴルグ=ラインソールの打倒と、ほぼ一致しています。
つまり黙っていればいいのです。
黙っていれば私は皆さんの仲間で居続けることが出来る。
その方法に至れた私はようやく、埋め尽くされていた恐怖と絶望が解けていくのを感じました。
これで皆さんに恨まれることなく、一緒にいることができる。
それが何よりも嬉しいんです。
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