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その日の夜は、一度皆さんの前に顔を出せたこともあって何とか同じ卓で夕食を食べれるようにはなりました。
ただ篠槙さんが傍にいることを意識し続けてしまい、終始頬が熱いままでしたが……。
次の日、部屋に戻ろうと歩いていたら篠槙さんに呼び止められました。
一気に顔全体が熱くなってしまい顔を伏せたまま返事をすると、一緒に出掛けないかという誘いを受けました。
初めは断ろうと思ったのですが、すでにユリアースさんたちから許可を貰っていることと、移動手段であるバイクのキーも渡されていることを聞き、断りきれずに頷いてしまいました。
彼の運転するバイクの座席の後ろ部分に座り、腰に手を回して密着している時間は、幸せと罪悪感で一杯でした。
「着いたぞ」
篠槙さんがスピードを上げた為に、怖くなって目を瞑っていた私はその声と共にバイクが停止したことでようやく目を開くことが出来る様になりました。
「あ……っ!」
そして目の前の景色を目の当たりにした瞬間、私は感嘆の声を上げていました。
そこは砂浜と海が広がっている、一見すると何の変哲もない海岸。
ですが私にとっては覚えのある場所でした。
『ハザード』によって記憶を封印された私ですが、『ハザード』そのものがまだ調整途中だったことと私自身が幼すぎたことで、その封印は完璧ではありませんでした。
それは想起を可能にしただけでなく、たった一つだけ封印漏れした記憶があったのです。
それがこの海岸の風景。
ですがその記憶にどんな意味があるのかまでは分かりませんでしたし、ゴルグに過去を探るなと命令されていた私は気にもしませんでした。
たまたまサブスタンティアティの任務の途中でここを見つけた時も、特に心が動いた気配もなかったのですが、演技をする為に一部の組織員にはこの場所のことを喜んだフリをしながらお教えしました。
恐らく篠槙さんはノルさんかユリアースさんからこの場所を教えてもらったのでしょう。
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