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以前こそ人形であった私は記憶にあったこの場所を見つけても何の感慨も感じませんでした。
ですが自我を取り戻した今は違います。
「わあ……っ!」
『ハザード』が漏らした僅かな記憶の景色。
それを目の当たりにしている今、まるでお父さんとお母さんが傍に居るような──
そう考えようとした瞬間でした。
「──っ!!」
先日と同じ種類の頭痛が、私に襲い掛かってきました。
咄嗟に頭を抱えたので、隣に居る篠槙さんも当然気付きます。
「お、おい! 大丈夫かエリーナ!?」
「だ……じょぶ、です……っ」
幸いにもハラマさんとの時ほどの強烈なものではなく、篠槙さんに返事が出来る程度の余裕が残っていました。
よろめく私を支える為に篠槙さんが肩を掴んできたのとほぼ同時に、脳裏に映像が流れ始めました。
それは家族三人でこの海岸にいる風景。
夏ではないらしく、外着のまま砂浜で海を眺めている。
あまり表情を変えなかったこの頃の私も、一緒に貝殻を探している母親に向けては微笑みを自然と浮かべていたのを、記憶の想起により気付かされました。
(この場所は私が人生で一度だけした両親との遠出の地、だったんですね……)
気絶することなく、少しずつ引いていく頭の鋭い痛みに安堵しながら、私はうずくまっていた上体を起こし直します。
「もう、平気か?」
「……はい、収まりました。もうこの場所で頭痛が発生することは無いと思います」
心配してくれている篠槙さんにそうお返事をすると、理屈が理解できていない篠槙さんは「どういう意味だ?」と聞き返してきました。
ですが今私はその説明よりも先に、篠槙さんがどういう意図でここに連れて来ようとしたのかの方が気になってしまいました。
「そちらよりも、どうしてこの場所に連れてきてくださったのかを聞いて宜しいですか?」
「あ……ああ、そうだったな」
すると篠槙さんは突然気まずそうに頬を指で掻きながら視線を逸らしてしまいました。
一体何なのか、と彼の顔をジッと見続けていると、決心をした様子の篠槙さんは姿勢を直してから私に言ってきました。
「あの時の返事をしようと思ってな」
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