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「……私、少しおかしいですね」
そう呟きながら、私はここに来てしまった理由を頭の中で模索し始めました。
そこで一つ思い浮かんだのは、
「篠槙さん……」
命を落としてしまった彼のこと。
今まで表に出てきたことがなかった感情を吐露させてしまった程の人物だ。
きっと、彼を部屋に寝かせる程度で済ませてしまったことを悔やんでいて、きちんと手向けてあげたかったのかもしれない。
「そう、ですね……。『組織』に戻る前にそれくらいはしておきましょう……」
『組織』に戻れば、お義父さんの新たな命を受け、必ず忙しくなる。
だからその前に、一つくらい自由なことをやってもいいかもしれない。
私はそう考え、ビルの中へと入ることにしました。
………………。
私は、当時レジスタンスの皆さんと協力して篠槙さんを運んだ部屋の前に辿り着きました。
死後一日経過した遺体と対面するのには、さすがの私も多少の覚悟が必要でした。
ゴクリと大きな唾を飲み込んでから、私はドアノブに手を掛けて開きました。
でも、そこにあったのは想定とは全く異なる光景。
「あれ……篠槙さん?」
ベッドと、脇に丸椅子が一つだけ置かれた殺風景な部屋。
しかしそこには誰もいませんでした。
寝かせたハズの篠槙さんの遺体も。
一度、呆然と立ち尽くした私ですがすぐにベッドの下や、掛け布団を捲り上げたりしてあるハズの姿を探しました。
でも篠槙さんの姿はありませんでした。
その後は部屋を飛び出して、ビルの中のありとあらゆる部屋を駆けずり回りましたが、結局見つかることはありませんでした。
本来なら、色々な可能性を思い浮かべるべきなのですが、
この時の私は一つの可能性しか考えつくことしか出来ませんでした。
「篠槙さんは……まだ、生きている……っ!?」
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