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しかし直後、私は気付きました。
(あ……でも──)
今、彼の目の前にいる私と、彼が見ている私が別人であることに。
(篠槙さんが恋焦がれているのは、私では──エリーナ=シャリテではなく、レジスタンスの一員としてのエリーナ=ラインソール)
篠槙さんが好きになってくれたのは、誠実で正義感の強い女の子。
でも実際の私は、心が脆く狡猾な最低女。
(本当の私を知ったら……きっと篠槙さんは私のこと、嫌いになるでしょう……)
そう考えると、今まで溢れても零れ落ちることのなかった涙が、一気に決壊してしまいました。
「うっ、うう……ううううぅぅ……っ!」
「エ、エリーナ!? どうした!」
突然の号泣に、篠槙さんが心配の声をかけてくれます。
ですが恐怖で頭が一杯の私には、それすらも痛いのです。
(嫌です……嫌われたくない……憎まれたくないです……)
その優しさも、私を「エリーナ=ラインソール」だと思っているから。
真実を伝えれば、きっと手を裏返すように簡単に私を突き放すでしょう。
それが怖い……。
それが嫌……。
でも──。
(でも──それでも、知って欲しい)
不安と恐怖に押し潰されそうだった私ですが、それでも一縷の淡い願いがまだ心の中には残っていました。
(例え嫌われるとしても、憎まれるとしても、虚栄の私を好きになってくれた篠槙さんに、私の全てを知って欲しい……っ!!)
演技をしていた仮初めの私とはいえ、受け入れようとしてくれた篠槙さんに、本当の私を知って欲しい。
その結果、嫌われたとしても憎まれたとしても、それは仕方のないことなのです。
自らが犯した罪が消えることはないのですから。
「う……ぐす……っ、篠槙さん」
「何だ?」
だから私はまだ溢れようとする涙を指で拭いつつ、しっかりと篠槙さんの顔を見据えました。
「私は……貴方の気持ちに応える資格がありません……っ!」
そして私は、彼の返事をお断りしたのです。
当然、篠槙さんは目を丸くして動揺しました。
「!? いや待て、エリーナが先に告白して来たんじゃないか。それはおかしいんじゃないか?」
無理ありません。
最初に告白をしたのは私であり、篠槙さんはそのお返事だったのですから。
この状況で断られるというのは、想定できるはずもありません。
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