NDB─初めて過るその想い

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「それが……エリーナの全てか」 「はい」 声に応えながら彼の方へと視線を向けると、篠槙さんは腕を組んだ姿勢のままでした。 その表情からはどのような感情を渦巻かせているのかは、私には分かりません。 ですが……彼は確実に── 「本当はもっと早く伝えるべきだったのです。……ですが、どうしても出来ませんでした。皆さんに、篠槙さんに嫌われるのが怖くて」 「エリーナ……」 私は潤み、涙溢れそうになるのを必死に抑えて篠槙さんを見据え続けます。 しかし篠槙さんは目を瞑り、一度息を吐いた。 怒りが度を越して、むしろ呆れてしまったのでしょうか。 「一つ、勘違いしてるぞ」 「へ? それはどういう……」 篠槙さんの言葉に私は素っ頓狂な声を出してしまいました。 一体、何が勘違いなのでしょうか。 私が皆さんを騙したという事実は変わりないでしょうに。 「確かに、エリーナが俺たちの敵として潜伏していた事実には驚いた。それにお前が流した情報によって俺たちが窮地に追い込まれたことも、簡単に許せることじゃないはずだ」 「はい……」 彼が語る事実に、私はただ頷くことしか出来ません。 仕方ないことですが、篠槙さんの言葉は胸に深く突き刺さりました。 「でもな、俺はお前の話を全部聞いた上でも……エリーナを恨む気持ちは一切芽生えないんだ」 え? と私は頷いた後に俯いたままだった顔を瞬間的に上げました。 私の顔を見た篠槙さんは優しく微笑んでから喋るのを再開しました。 「本来のお前もまた、ゴルグによって運命を歪められ、奴の悪行を止めたいと願う被害者の一人だ」 そう言った直後、篠槙さんは頬を紅潮させて照れたような表情になりました。 「だからその……なんだ」 何を言い淀んでいるのか、私は察することが出来ずに黙ったままただ言葉を待ちました。 微かに聞こえる波の音が脳内に響くのを感じ取っていると、ゆっくりと篠槙さんが言ってくれました。 「エリーナはエリーナだ。ラインソールでもシャリテでも、俺にとっては同じなんだ」 「篠槙さん……」 それは思ってもみなかった言葉でした。
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