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ノマディックメトロと呼ばれる島。
影ながら大きな陰謀が渦巻いていた場所だったが、それももう過去の話だ。
「……ん?」
自室で読み物をしていた天津星河は、部屋に響くインターホンの音で集中が途切れた。
しかし数瞬後に、ドアの覗き穴を見るまでもなく誰が訪れたのかを悟る。
「……と言っても無視できないよな」
そんな後ろ向きなセリフを口に出しつつも、星河の口元は少し緩んでいるように見えた。
立ち上がり、一応覗き穴を確認してからドアを解錠する。
「遅い。もっと早く開けなさい!」
「これでも素早く開けに行った方だよ」
目の前に現れた姿は、ターコイズブルーのコートを身につけた星河と同年代の女の子。
錦燕。
数ヶ月前に星河と同じクラスに転入し、クリーチャーを実体化させるという恐ろしい力を持っていた、元サイコデュエリストだ。
「アタシの使用人ならもっと早く開けてるわ、見習いなさい」
「ここはキミの家じゃないからね。ご不満なら帰っても構わないよ」
「そうやって帰そうとしても無駄よ! アタシが他人の意見で自分の意思を捻じ曲げないってこと知ってるでしょ」
ツバメは星河の提案を無視し、開けられたドアから滑り込むように室内へと上がっていく。
とはいえ彼も彼女の本質を理解している。
何故ならツバメが星河の部屋を訪れたのはこれが初めてではないからだ。
『サブスタンシャル・コーポレーション』の真の姿、『サブスタンティアティ』との戦い。
その最終決戦で、星河は創始者であるゲイザーズとデュエマをすることになった。
だが既にゲイザーズの肉体は無い。故人に分類される人物だからだ。
だからゲイザーズはツバメの肉体を乗っ取り、我が物にしようとしたのだ。
星河はそのゲイザーズによって仕掛けられた『闇のゲーム』と呼ばれる恐ろしい戦いに辛くも勝利し、ツバメを取り戻すことに成功した。
その後ツバメは政府に身を預かることとなってしまったが、運良く彼女はサイコパワーを失っていた。
数日間の身体検査を経て、彼女の身柄は錦家へと戻されることとなり、星河たちとの再会も果たされた。
だが、今この状況を説明するのに重要なのはここから先なのである。
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