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そして更にその数日後、彼女に呼び出された星河はツバメが口にした言葉に多少なりとも驚くこととなった。
──星河をアタシの『カレシ』にしてあげる!
ツバメらしい言い方だ、というのが星河の脳裏に初めに浮かんだ感想だった。
聞いた瞬間こそ目を見開いた星河だが、よくよく考えてみれば不思議ではないことに気付いた。
自分はサイコパワーを無自覚に発動してしまったツバメの傍にいて、彼女が政府そしてテロ組織に捕らわれないように戦い続けた。
最後は肉体を乗っ取られた彼女を、敗者は死ぬというルールの下行われたゲーム内ですら救ったのだ。
決してそれらは自分の力だけで達成されたものではないが、きっとツバメの目に俺はヒーローとして映っているのだろう。
ヒーローに対する感謝と羨望の想いが、恋慕に変わるのは自然なのかもしれない、と星河は結論付けたのだ。
しかし彼は彼女の告白を受け入れることはなかった。
星河は死に物狂いでツバメを助けたが、それはたった一つの自分の意志を貫くためだった。
──ツバメとまたデュエマがしたい。
彼にとってツバメを救うことは自身のデュエマへの欲求を満たす手段の一つだった。
友情こそ感じてはいるものの、恋愛感情とは無縁だったのだ。
友人としてツバメが好きだからこそ、自らは相応しくないと星河は思ったのだ。
だが前述の通り、ツバメは折れなかった。
先ほどと全く同じセリフを言い放ち、こうして今も足繁く星河に会いにやってくるのだ。
「……それにしても、相変わらず殺風景な部屋ね。せっかくアタシが綺麗にしてあげたのに」
「お陰で掃除がしやすくなったよ。ツバメの厚意には感謝してるって」
元々の星河の住まいは決して快適な環境ではなかった。
親がおらず、一度身を預けていた孤児院からも飛び出した星河は根無し草も同然。
なので住居環境が劣悪であっても破格の家賃で済む場所に身を置かざるを得なかったのだ。
とはいえ、星河はどうせ寝るだけだと大して気にしていなかったが。
しかしツバメが初めて星河の部屋に押し掛けた時、この部屋の惨状に絶句したのだ。
彼女はすぐに自身の資産力を用いて新居の手配を始めようとしたが、当然星河はそれを拒否した。
ならばせめてもと、ツバメはこの部屋のリフォームを依頼したのだ。
本意ではなかった星河だが、部屋が清潔になってくれたことには案外感謝しているのである。
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