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「えっと──拝啓、天津星河君。久しぶり。突然の大荷物、ごめんね。実は私は今、自分探しのようなものも兼ねて、かつての仲間たちの足跡を追っているところなの」
まずは挨拶の言葉と、自分の現状を説明してくれていた。
巴は以前既に、かつてのレジスタンスの仲間たちの消息ついては調べをつけていたハズなのだが、気持ちの整理がついた今、自らの足でそれを巡る旅をしているようだ。
恐らく最後は、マリアさんの所へと向かうんだろうなと星河は脳裏で考えた。
「その途中、今まで見つけていなかったハラマの隠れ家を見つけたんだ。そこには、彼が作っていた何かの機械が厳重に保管されていた。その中身を調べようと思ったんだけど、ロックが掛かっていて起動することすらできなかったの」
「ハラマさんの……っ!?」
その人物の名前に、星河の心は強く揺さぶられた。
ハラマ……。
かつてサブスタンシャルコーポレーションの社員であった男であり、奇才ともいえる実力を有した開発者だった。
それ故に彼は秘密裏にDNAを引き抜かれ、与り知らぬところでクローン体が作られていたのだ。
それこそが天津星河。彼なのである。
年齢差で考えれば、分身というより親子に近いような関係。
だがさすがに顔も知らぬ人物に、父親に対した感情は現れなかった星河だが、それでも特別な存在であることに変わりはない。
真実を知った時には既にこの世にいなかったという事実は、やはりとても悔しかった。
「そのロックを開錠する鍵は、どうやら君が持っているデッキ──イリーガル・メディアだというところまでは分かったから、これを君に送ります」
そう。星河がハラマの血を継ぐ人間だという証拠こそが、イリーガルメディア。
彼はサブスタンティアティが企てていたニュークリア計画を阻止する切り札であるそのデッキを託す人間として、自分に酷似した才を持つ者──つまりは子孫に等しいクローン体を選んだのだ。
そのデッキが星河に届いたことが、その証明となる。
「恐らく、彼はこれを君に託す為にロック解除の鍵を君のデッキにしたんだと思う。だから、それは君の自由にして。もし必要がなければ、捨てちゃって良いからね。それでは、また会える日を。柿葉巴より。敬具──だってさ」
「……ああ、ありがとう」
決して手紙の内容は長いものではなかったが、それを聞いた星河の気持ちはとても複雑なものだった。
つまりこの荷物は、ハラマが星河に託したものなのだ。
一体それが何を意味するのか。彼にも想像がつかなかった。
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