NDB─初めて過るその想い

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それから幾ばくか時は過ぎ、深夜。 皆さんが寝静まっている中、私は目蓋を開けました。 音を極力立てぬように起き上がり、再びアジトの扉を開けて外へと出ます。 「ふう……」 そこでようやく一息。 私は上着のファスナを少し下げ、顕わになった谷間に指を入れます。 そこから取り出したのはミニパソよりも小型の機器。 市販品よりも二世代程進んだ技術で作られた超最新型の通信機器です。 当然、そんなものを所持しているのは『組織』から提供されたからです。 (最後の情報送信から大分時間が経ってしまいました。こちらのアジトの位置を補足させる意味も込めて、今の内にしておくべきでしょうね) 消しゴムサイズの機器を左手首に当てながら、サイドに着いている電源を押すと収納されていたベルトが手首を覆って時計のように装着される。 さらに機器からの光線によって私の目の前に空間投影されたキーボードとモニターが出現します。 私はそのキーボードをタッチし、『組織』へと送るレポートを作り始めました。 レルードゥさんの襲撃、結果。恐らくは本人から報告は受けているでしょうけど、記載しておきます。 そしてレジスタンスのその後の動向、新アジトの座標、残されたメンバーの精神状況など。 小一時間ほど掛け、私はレポートを完成させました。 (後は、これを送信するだけ) 保存はせず、書いた内容を『組織』に向けて送るだけ。 その後はこの通信機器を再初期化し、何食わぬ顔で布団へ戻るだけ。 今までと何ら変わらないハズの行動。 ……しかし私の指は、最後の送信を確定させる為のエンターキーを押す寸前で止まってしまいました。 「どうして……?」 今日、何回口にしたであろうその言葉。 私の脳裏には、今は亡き篠槙さんを含むレジスタンスのメンバーの姿が焼き付けられていました。 皆さん笑顔で……私を迎えるように立っているのです。 (駄目です……! 私は『組織』の一員……。レジスタンスは「敵」なのに……! なのに……なんでこんな……っ!!) なんで、 なんでこんなにも、 胸の奥が温かくなっているのでしょうか。 結局、私はレポートを送信することなく、通信機器の電源を落としてしまいました。
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