6人が本棚に入れています
本棚に追加
/96ページ
「陽毬、どうだ」
慧はずっと会長席で対戦相手のことを調べ続けていた陽毬に成果を確認する。
しかし彼女は彼の問いかけに首を横に振った。
「ううん、ほとんど情報は取れなかったよ」
そう答えつつ、陽毬は糊付けされたメモ帳の一番上を剥ぎ取り、二人に向けて差し出した。
「「ノマディックメトロ?」」
「分かったのはこれだけ。でもこんな単語、検索しても一切出てこないんだ」
当然、そのメモを読んだ隆侍と慧も首を傾げることとなった。
だがその直後、慧は一つの可能性を提示した。
「もしかしたらあの二人は、異世界の住人だったのかもしれないな」
「……さすがに飛躍しすぎてないか」
隆侍はすぐにそれを否定しようとしたが、慧は少年のような快活な笑みを浮かべながら説明を始めた。
「確かに信じられなさそうだけどさ、俺たちは既に超常的な現象を知っている。それを考慮すれば、荒唐無稽ってわけでもないだろ?」
慧が例に出したのは当然、リアリゼーションのことだ。
実体化したクリーチャーが現実世界に現れているのだから。
それを言われた隆侍はさすがに否定を続けることはできなかった。
「そう言われると、あり得なくはないのか……?」
「ま、どの道俺達にはそれを確かめる術は無いけどな」
慧はそういうと少し残念そうに首を左右に振った。
確かに、今回の邂逅は通信対戦の不成立というイレギュラーによって発生した特殊な事案なので、再現性はほぼ無いのだと隆侍も理解した。
「とはいえお前のデッキ──いや、《ルナ・ブルーダイナソー》が要因の一つである可能性は高いからな。しばらくはそのデッキでのネット対戦を続けよう」
「ああ、そうだな」
対戦相手の彼のエースが、隆侍のエースである《ルナ・ブルーダイナソー》と同一ステータスを持つ《アストロノーツ・ワイバーン》であったからなのだと、隆侍も理解した。
「それにしても、オリジナルデッキ同士の対戦って、ホント面白すぎるぜ。最後なんて攻撃が通るのかどうかヒヤヒヤしたわ」
「…………」
慧が話を切り替え、対戦内容に触れたことで隆侍は一つの疑問が思い当たった。
勝負が決した最後の《ブライトホーク・リプル》の攻撃、
確かに彼が《星鳥グラティア》を引いていた可能性は低かったとはいえ、何故か隆侍はあっさり攻撃が通ったことに違和感を感じていたのだ。
(今度は時間に迫られない形で、しっかりと決着をつけたいな……)
故に隆侍は、彼との再戦を密かに望んだのだった。
最初のコメントを投稿しよう!