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「あの篠槙さん、一つお願いがあるんです」
次の日、朝食を終えたタイミングでエリーナが俺に声を掛けてきた。
「何だ?」
「実は本日、一緒に行って欲しいところがありまして……」
そういうエリーナは申し訳なさそうな、バツが悪そうな、そんな表情をしていた。
決戦を終え、アジトに戻ってきたエリーナは、ずっと落ち込んだ表情をしている。
……まあそれは瑞稀以外のメンバーは、大抵その気はあるのだが。
「ああ、もちろん構わない。目的地はどこなんだ?」
「それなんですが……」
そう言うとエリーナは端末を取り出した。
……上着のチャックを少し下ろして、谷間の中から機器を取り出したので、流石に目を奪われたが。
けれどエリーナは全く気にもせず、端末を操作して一枚の写真画像を表示して俺に見せてきた。
研究所のような建物で、表札には『立体映像空圧研究所』と書かれている。
その建物名を見て、俺はすぐに思い当たった。
「ここは……っ!」
「覚えててくださり、ありがとうございます。はい、ここは私がゴルグの養子に選ばれた場所。『養子選定場』です」
かつて、エリーナは『自我カテクシス欠乏症』という自我が無い症状を持っていると思われており、ゴルグが自分の命令を100%実行する傀儡人間を見つける為に、同じような疑いを持っている子供たちを集め、様々な課題をこなさせることでそれを見つけ出そうとした実験場だったのだ。
実際、以前のエリーナは非常に自我が薄かっただけで存在していなかったワケではなく、結果ゴルグへの復讐心によって自我が確固たるものとなったワケだが。
……しかし何故、エリーナはわざわざトラウマになっているであろう施設に行きたいのだろうか。
「理由は到着した後にご説明いたします。かなり距離があるので、出来ればすぐに向かいたいんです」
「ああ、分かった。ならすぐに向かおうか」
後で説明してもらえると言ってくれたので、俺はこの場ではそれ以上聞かずに受け入れることにした。
なので俺たちは遠出の為に必要な移動手段を得る為、ノルにバイクを借りたい旨を伝えに行くのだった。
………………。
「ふう、着いたな」
「はい、ありがとうございます」
俺たちは停止させたバイクから降り、立体映像空圧研究所の敷地に足を着いた。
ちなみにノルからは案外あっさりバイクを借りることが出来た。
ノルはエリーナの裏切りで激昂した側だったので、かなり難しい交渉になるかもと思っていたが、エリーナの首に発信機付きのネックレスを付けることを条件にすぐに鍵を渡してくれたのだ。
裏切られていたのは事実だが、それでも今は決戦を共に戦い抜いた仲間。
色々と思うところがあるんだろうな……。
立体映像空圧研究所は長い年月を経て、ほとんどが崩れて瓦礫だらけになっていた。
踏み入るには少し危険そうだな……。
「エリーナ、大丈夫か。かなり危なそうな感じだが」
「そうですね……。探すのは私の部屋があった場所ですので……あそこらへんですね」
そう言いエリーナが指さしたのは比較的小さい瓦礫がある場所だった。
あれなら俺が瓦礫を動かしてやれば探すことが出来るだろう。
「あれなら大丈夫そうだ。で、何を探すんだ?」
俺がそう質問すると、エリーナは指で小さく象って示してきた。
「シャリテ――かつて私が殺めてしまった白い犬の遺品、です」
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