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月映え(つきばえ)っていうのかな……。青白い月の光に照らされていっそう美しく映えた男から目が離せない。
有名な別荘地から少し離れた所にポツンと建つ赤い屋根の可愛らしい家。そこから一人の男が出て来て見事な満月を仰ぎ見た。
たぶん普通に見てもかっこいい部類に入るだろう。背はそんなに高くない(多分僕と同じ170センチくらい)が、顔が小さいからか余計にすらりとして見える。髪は漆黒で、目は切れ長の一重、スッと通った鼻筋の下にはやや薄いが形のよい唇が少しだけ弧を描いている。
━━まるで月に向かって笑いかけているみたいだ。
運転席に座ったままじっと眺めていると、不意にその男がこちらを向いた。
あっ……
そう思った時には既に遅く、僕はその男の前に立っていた。目が合った瞬間に体が勝手に動き、自然に車から降りて男の前で立ち止まったんだ。
「柊先生ですか?………」
僕の問いかけに男はにこりと笑うと、細い指で僕の顎をくいと上げた。
「痛っ……」
━━まさか、噛まれた?
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