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俺は再びギターを持って歩き出す。
列車に乗り込み、デッキに立って振り向く。
「じゃあ……行くよ」
「夕穂くん、これ!」
突然の声に驚く間もなく咄嗟に出した俺の右手に彼女は、シャラッ、と何かを手渡した。
見るとそれは彼女がいつもつけていた、花の形の銀色のネックレスだった。
「え、これ、未華子ちゃんの」
「あのね、私決めた。いつか夕穂くんと一緒に仕事する。どんな形かわからないけど、絶対!」
出逢ってからきっと初めて見る、翳りも儚さも纏わないまっすぐで素直な笑顔が、彼女の表情に咲いた。
「夕穂くん、出逢ってくれてありがとう! 唄っていてくれてありがとう! 私ね、夕穂くんの歌、大好きだよ!」
閉まるドアーにご注意ください、と流れる無機質な声をかき消すように俺は叫んだ。声のでかさだけは自信があるんだ。
「昨日唄った歌! あれは未華子ちゃんの歌だから! 絶対また会おう! いつか一緒に夢を叶えよう!」
俺の言葉に未華子ちゃんが何か返そうとしたけれど、白い扉が二人の間でゆっくりと閉まった。
小さな窓の向こうで彼女は、赤い花束に頬を寄せて手を振ってくれた。その口元は確かに「また会おうね」と笑った。
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