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「ご馳走様!アイス珈琲美味しかったよ、焼きそばも…幾ら?」
「合計で1100円になります」
「そう?じゃあこれ!」
実智と竜之介と呼び合っていたお客は出されたものを全部平らげてレジのあるカウンターに来て支払いをした、応対したのは他の3人を差し置いて真っ先にレジへ立った伊織、2人は5000札を1枚ポーンと置いて
「お釣りは要らないわ!本当に美味しかったから私からのボーナス!皆んなでなんか食べるなり飲むなりして」
「いえ、お客様困ります…お釣りはちゃんと…」
「要らないわよ、それにこの味でこの金額設定は格安過ぎるわ、売り上げ考えるならも少し高値でだしても売れるわよ?じゃあね…また来年あれば立ち寄るわ!」
伊織が困った顔をして兄貴を見たが、兄貴は小さく頷いて床の掃除を始め、代わりに俺が伊織の所に行ってから
「折角のご厚意だ、頂いて皆んなに何か食べるなり飲むなりしてもらおうよ、伊織」
「うん…亘が言うなら…でも不思議な人だな(私と同じ匂いがした)」
最後の方は亘の耳元に小声で伝えた。
その日の夜、俺は伊織と夜のデートを楽しむ為に店を出た、士苑さんはからかう様に兄貴とビールを飲みながら上機嫌で、美琴さんは応援するかの様に微笑む…ただ、詩織ちゃんだけは何処かそっけない態度で俺よりも伊織をジーッと見つめながら無言だった、店から離れて歩いていると不意に伊織が話し始める。
「詩織ちゃん…だっけ?」
「ああ、何時もみたいに笑ってなかったけど…俺なんかしたかな?」
「そんなんじゃないわよ、亘」
「へっ?」
「彼女は亘に惹かれてるから私に嫉妬してるの!」
「詩織ちゃんが?」
「鈍いわね…あの子私達が笑ながら話している所を観葉植物の陰からずーっと覗いてた…アレは恋する乙女の顔だよ…気付かなかったの?」
「全然…でも、注文取りに来た時は何時も通りだったけど…」
「見てないわね…亘、あの時も足が動揺して震えていたわよ?」
「マジか!?…しかし、俺には…あっ!」
言い掛けたその先につまり黙り込む亘…伊織は直感したが、きっと彼は本当の事を言わないだろう…かと言って強引にそれを聞こうとは伊織はしない、それでは意味がないと思うから。
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