美味しいお弁当

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「…そうだったんですね。では、遠慮なく、お弁当頂きますね」 「はい!美味しかったら、美味しかったらでいいんで、またご注文よろしくお願いします! あ、これ、僕の名刺です!」 お兄さんが尻のポケットから黒い手帖を取り出し、そこから抜いた紙片を私に差し出した。 【美味しいお弁当で皆様を笑顔に ササズ・キッチン 代表取締役 笹 和宏】 「代表取締役とか、恥ずかしいんですけど、一応」 少し赤くなって照れるのがかわいい。 「あなたは…伊藤、えと、ふうら、さん」 笹さんが私の首から下げたネームプレートを覗き込んだ。不意を突かれて私は少し慌てた。 「あ、そうなんです、ふうら、です。ひらがなで」 へんな名前、と思ってるでしょ? ふんふんと、笹さんが細かくうなづく。 「『ふうら』か、へえ。 こんなかわいい名前、初めてだ」 笹さんの屈託ない笑顔。 ドキドキドキドキ…心臓が騒ぎだす。 もっともっと彼を知りたい。 私の視線は彼から離し難くなっていた。 仕事中なのに。 お弁当、早く休憩室に持っていかなきゃいけないのに。 一体、どうしてくれるんですか? 【完】
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