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「ややや、いいですよ!お代はいりません」
両手をぶんぶん振って受け取りを拒否するお兄さんに、私はあぜんとした。
それじゃ商売にならんでしょーが。
「間違えて受付に配達で入ったくらいで、そんなに罪の意識感じなくても…」
「…いや!そうじゃなくて」
「は?」
お兄さんは急に神妙な顔つきになった。
「…ササズ・キッチンは、先週、開店したばかりなんです。
実は…僕、食品関係の営業マンだったんです。でも、なんか違う、これでいいのかと。考えてるうちに何か飲食で起業したいという気持ちになって。5年勤めていた会社を辞めて、調理師の免許を取りました。そして、弟、友人、近所のパートの方3名にお願いして、手探り状態の中、ササズ・キッチンをスタートさせました。
何を隠そう、伊藤さんが初めてのお客様です!」
「….はあ。そうでしたか」
伏し目がちだったお兄さんがパッと顔を上げた。その目がキラキラ輝き出す。
「…で今、試行錯誤しておりまして、只今、ご試食キャンペーンとすることにしました!
食べて美味しかったら、社内の皆さんやお友達に宣伝して下さい!最高30食まで対応させて頂きます!
土日、社内行事など、オードブルも承ります!」
ガッと勢いよくお辞儀されて、私は圧倒されてしまった。
すごい熱意!
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