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待ち人
昼前からもう6時間近く、美術室にこもっている。
情熱を注ぐ作品を作っているからだ。
とは言っても、
正しくはその作品造りに付き合っていると言う方が、
もっとも適した表現なのかも知れない。
哲弥はの作品は、
感情的に、エレキギターを弾く男の作品だった。
ギターの絃も本物を用意し粘土に練り込み、
忠実に再現している。
情熱的な作品は、本当に音色が聞こえてきそうだ。
俺の作品は、よくありがちな左手の粘土細工。
一応、腕時計やアクセサリーを掛けれる様に
微妙な工夫をしているつもりだが、
哲弥の作品の足元にも及ばない。
日の落ちた外の景色を眺めていると、
琴の事が気になった、
蓮とどんなデートしてるんだろう。
グラウンドでは、LEDの投光器が灯され
夕方までのサッカー部とバトンタッチし、
野球部が、ナイター練習を始め出した。
「 匠、」
「 うん。」
「 悪いな。付き合わせて。」
「 何だよ。気持ち悪いな。」
「 でも、家で一人でいるよりはいいだろう。
俺の気遣いも、ちょっとは役に立ったか?」
「 ああ。」
「 ありがとうな。」
「 いい事教えてやろうか。」
「 なに。そんな勿体ぶって。」
「 俺さ、エレキのこの作品作るのに、
ちょくちょく美術室来ててさぁ、
そん時、見つけたんだ。」
「 何を?」
「 一年の時、彫ったの覚えてる?」
「 彫った? 一年?」
「 あっ!」
高校1年の1学期、初めて美術室を授業で使用した際、
哲弥とある悪戯をしていた。
お互いどっちが先に彼女出来るかを競って夢見た時期だった。
美術室の木製の板壁に、
相合傘を彫刻刀で彫り、
傘の片側に自分達の名前を彫って、
彼女が出来たらその子の名前彫ろうなって・・・。
「 すっかり忘れていた。」
彼女出来ないまま、1年が過ぎ、
2年も過ぎていた・・・。
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