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「 ・・・・・・ 」
「 ポツッ、ポツッ・・・」
「 ポタポタポタッ・・・ 」
先程までと変わり、大粒の雨が降り始めた。
「 あっ! 俺、傘、傘ある。」
大きな傘を広げると、
琴を傘の中に招き入れた。
先程まで、噴水のライトアップに
愛を語り合っていたカップル達は、
急な雨で、一人もいなくなっていた。
「 二人きりだね。」
「 わぁ。。。相合傘。
初めてだ。。。」
「 あっ、琴。
あの、美術室の壁・・・。」
「 あっ!気がついてくれたんだぁ。
でも、遅いよ!
もう、一年くらい前だよ。書いたの。」
「 そうだったんだ。」
「 それに、相合傘。
匠、右側に名前彫ったでしょう!」
「 あれは、お雛様と一緒で、
男は左側だよ。」
「 えっ!そんな決まりあるの?」
「 古式の京雛は逆なんだけど、
現代っ子は普通はそうだよ。
なんか。彫ってて違和感あったもん。」
「 そっか。」
「 ふふっ。 」
「 匠、聞かないの?」
「 蓮くんとの、デートの事・・・。」
本当は気になって、
どうしようも無く気になってしょうがなかった。
なのに、
爺ちゃんの言葉が頭から離れなかった。
「 型友禅・・・
とても綺麗で鮮やかな染め姿を現す為には、
何十枚もの手彫りされた型枠を、
幾度となく重ね染め上げ、
仕上がるものだ。
断片的な、一枚一枚の積み重ねが、
魅力ある美しい姿へと変えてゆく・・・。」
今、目の前にいる素敵な琴、
その姿は、今日の蓮との事も積み重ね
もっと綺麗な女性になってゆく・・・。
今は心から、そう思える様に感じたから、
デートの事を聞く必要などなかった。
きっとそう思う。
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