8月109531日

13/23
前へ
/23ページ
次へ
ドアノブが回った。 あれだけ何をやっても石のように固まっていたドアが、 少し力を込めただけで、あっさりと開いてしまった。 その時の僕の喜び様は、半狂乱と言っていいものだった。 8年ぶりに足を踏み入れた自宅の廊下、立て掛けられた掃除機、壁に貼られたポスター、 何もかも懐かしくて、感動的だった。 その足で、母が待っているはずのリビングに向かった時だった。 リビングの閉じられたドアに、今まさに手をかけようとしている、姉の姿があったのだ。 無表情のままピタリと静止している、その姿、その顔を見た瞬間に、 8年間溜まりに溜まっていた涙が溢れ出した。 願わくば活き活きと動いていて欲しかったが、 それでも「自分以外の誰かがそこに居る」というだけの事が、 こんなにも有り難い事だとは思わなかった。 僕はしばらく「姉さん」と掠れた声で呼びかけながら、 小さな頃、怖い夢を見た後に慰めてもらった時のように、 しばらくの間、すがりついて泣き腫らしていた。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加