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そのままリビングに入れたら、どんなに良かっただろう。
リビングのドアノブは、硬直したままだったのだ。
そのドアの向こうに居るはずの、母の顔は見えない。
用意されているはずの、あたたかい晩御飯が何なのかも分からない。
自室の窓に変化がなかったので、もしかしてとは思っていたものの、
家の中だけなら自由に出入り出来るかもという希望は持っていたので、
その落胆は大きかった。
その後、玄関も含めて家中の扉を調べてみたものの、
結局動くようになったのは、自室のドアだけだった。
「ごほうび」というのは、自宅の廊下まで行動範囲が広がった事と、
姉の姿をいつでも確認できるという事のようだった。
確かに姉の存在というのは精神的にかなり助けとなるものの、
根本的には何も状況は改善されていない。
そうして枯れ木のように脆くなった心を、更にベッキリとへし折ってきたのが、
2つ目の「ごほうび」の正体を確認した時だった。
試しにゲーム機本体を再起動させてみたら、
そこには見慣れたインターフェースや、聞き慣れた起動音は存在せず、
あったのは例によって黒地に白文字のレトロな画面に、
「あと10000ほん」という大きな表示、
そして画面下にいくらスクロールさせても続く、ゲームタイトル名の数々。
これは「ゲームのかみさま」から下された、
あと10000本のゲームを遊び尽くせという、極めてシンプルで、この上なく過酷な試練だった。
これを「ごほうび」と呼んでいいものかと、僕は途方に暮れた。
243本のクリアだけで8年以上かかった。
10000本ならどうなるかなど、計算したくもなかった。
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