8月109531日

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ドアノブはびくともしなかった。どんなに力を込めて回しても。 僕の自室のドアに鍵なんか付いていない。 例え付いていても、少しぐらいはドアノブが動くはず。 それが、まるで硬直したかのように、微動だにしなかったのだ。 内側に開くドアだから、廊下にあった物でドアが塞がったとも考えられない。 訳が分からなくなって、僕は大声で母を呼び、助けを求めた。 何度も何度も、声が枯れるまで叫んだ。なのに母は助けに来なかった。 今しがた晩御飯ができたと呼んでいたのに、なぜ何の反応も示さないのか。 僕はいよいよパニックに陥っていた。 ドアを破壊しようと何度も体当たりをしたり、椅子で殴りかかったりしたが、 それでもドアは傷一つ付かないままで、何も解決する事はなかった。 僕は疲れ果て、一旦ベットで横になった。 そうして自分が落ち着いた事で、初めて更なる異常に気が付いた。 世界が有り得ないほどに静かだったのだ。 先程まで確かにあった、鳥やセミの鳴き声も、工事現場の作業音も、何も聞こえない。 嫌な予感がして、僕は窓の外を見た。 ジョギングをしている風の男性が、 「走っている最中のような姿勢」のままピタリ止まっている。 幾ら見続けても、彼は同じ姿勢のまま、一向に動こうとしない。 窓を開けようと思って、鍵に手をかけた。 こちらもドアノブと同じだった。どんなに力を込めても微動だにしない。 ぶち割ろうと思って、椅子を思いきり窓に投げつけたが、 薄いガラスの窓に虚しく弾かれるだけだった。
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