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 ぼろぼろの白装束は乱れ、長い髪が腰まで垂れている。洞窟の天井に頭が着きそうな程の長身で、顔は薄暗くて良く見えないが、女のようだ。 「うわああぁぁぁ!」と後ろから来ていた康平の走り去る足音が聞こえる。  俺と慶太は前を塞がれる形で怖くて動けない、すると、そいつは両手を前に上げ、すーっと俺の方に移動してきた。 「あぶねぇ!」と、慶太が俺の肩を押した。俺はよろけて、そのまま積まれた石を背に尻餅をつく、慶太は俺をかばった為、女に捕まっていた。  両手で肩を掴まれ、顔がくっつく程近付けた女は、囁く様な声でぶつぶつと何かを言っている。  慶太の目は開いてるが、意識が無いように見えた。  すると、今度は俺の方を向き、ゆっくりと近づいて来る。  女は、見上げるほどの長身を腰から折り、ゆっくりと自身の顔を俺の顔に寄せてくる。  女の目には薄汚れた包帯が巻かれ、眼球が在ろう場所からは血が滲み、額には御札が貼られていた。......いや、札は貼られているのではなく、額に釘で打ち付けられているように見える。  俺の隣では空中の一点を見つめ、開いた口からよだれを垂らし、一目で正常ではないと分かる慶太がいる。  近付く女の顔から目が離せず、恐怖のあまり動けない、こいつに触れられれば俺も、慶太の様になっちまうのか? 女を凝視しながら、俺の意識は......少しづつ......薄れていった。
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