3.異端の少女は絶望の青年を見つける

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3.異端の少女は絶望の青年を見つける

――――あの日。 風景は、灰色だった。 盆休暇中の学校。 中学三年生だったマコトは、ガソリンのタンクを持ってよろよろと校舎を周回していた。 窓ガラスは何枚かバットで割り、校庭の隅にある物置のドアも壊して、マットを引きずり出していた。 そしてそこに、ひたひたと、ガソリンをそこに注いでいた。 単なる自殺願望ではなかった。 最後くらい、盛大に迷惑をかけるため。マコトは学校と心中する気だったのだ。 ボサボサの黒髪を振り乱しながら、冬の間に家に溜めたガソリンを何度も往復しながら学校へ運んだ。 真っ昼間に、よくも誰も止めなかったものだ。そう回想するが、ほんとは夜だった気もする。 自分の所属するクラスの教室には、念入りにガソリンを撒いた。 不登校のまま夏休みに突入したにもかかわらず、クラスメイトの名前と顔を、マコトは全員覚えていた。 それはいつか復讐するためだったが、もう、どうだってよかった。 なぜなら、自分はいまここで焼け死のうとしている……。 学校じゅう、どこまでいってもガソリンの臭いが立ち込めるようになり。 マコトは、唯一何もせず残しておいた焼却炉のとなりで煙草をくわえた。 ラッキーストライクの文字をみると、どことなく浮き立つものがある。 自分のような底辺の人間でも、肉体があり金を払えさえすれば毒物を吸えるのだ。 気化したガソリンのなかでライターなんて使ったら、一気に爆発を引き起こす――可能性が、ある。 それをマコトは期待していた。 もしくは、指についたガソリンに引火することを。 しかし、いま思えば、そう考えている時点でオシマイだった。
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