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火のついた煙草の先の、揺らめきを覚えている。
ガソリンを染み込ませたマットは、校舎のいたるところに置いた。
この火種を放り込めば、燃える。それは暗闇のなかでうっすらと見えた希望のはずだった。
だが、いざ短くなった煙草を持ち、はっきりと形を描いたそれを見ると、それは希望などではなく明確な罠としか思えしかなかった。
短くなった煙草を、マコトは焼却炉の側面で擦って消した。そして、新しいものに火をつける。
今度こそ、 今度こそ。
そう思ったって、引火もしなければ放り投げることもできないままだった。
舌打ちをしたかったが、そんなこといままでの人生でしたことなくて、やり方がわからなかった。
震える手を押さえて、最後の煙草に火を点けた。そして、焼却炉の横という安全区域から踏み出した。
チリッ、と火種が音を立てた。心臓が潰れるんじゃないかというほどの痛み。
校舎の壁に背をつけると、シャツがじわりと濡れた感触。
マコトは怖じ気づいていた。ここまできて、今さら。
止めて、堪るか。
マコトはもはや死への憧憬も恐れも忘れていた。ただ、意地だけで煙を吐いていた。
最後に思い付く言葉もなければ、生への未練もなかった。
そんなものが何もなくても、この世に絶望したままでも、死んだほうがよっぽどましでも。
人は――死を、恐れるのだと。
マコトは、知った。
そのうち口から煙草が落ちるだろう。
マコトは目をつぶった。
気化したガソリンを吸い込みすぎたせいか、脳味噌が溶け出すような錯覚を覚える。
手足が痺れて重たく、反対に震えは収まりつつあった。そのとき。
何かの、気配がした。
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