1.群衆は異端の入り口に触れる

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マコトが近づいても、宇津木は顔を伏せたままだった。 外敵から身を守るように、組んだ腕を頭の前に置いている。 パーカー長い袖から小さな手の先が覗いており、さらにそれには桜貝のような薄いピンクの爪がついていた。 意外にも、それは綺麗に整いつやつやとしていた。 バァン! と金属音が響き渡った。 それはマコトが、宇津木の机の下に足を入れ、そのまま蹴りあげた音だった。 机の天板に顔を殴られた形になった宇津木は、声もなく顔を上に跳ねさせた。 長い前髪に隠されていた白い額がチラリとマコトの視界に入る。フードが頭からずり落ちそうだった。 マコトは宇津木の前髪をフードごとつかむと、スーパーボールをどれだけ高く跳ねさせるか挑戦する小学生のように、腕を下に振り下ろした。 ズシャッ、と宇津木は上半身を床に擦らせる。倒れたイスに足が絡まり、短いスカートがめくれあがった。 オーバーショーツも履いていない。綿のパンツを、マコトの体が邪魔しない位置にいた数人の生徒が目撃した。 しかし宇津木はそれどころではないらしく、汚れた袖で顔を覆っていた。 「おい、さっさと立て」 冷たい声でマコトは言い、靴の裏で彼女のスカートの裾を踏んだ。 ウエッ、だか、ヒグッ、だか。 宇津木は嗚咽を漏らし、それでも涙は見せずに体を起こす。マコトの靴裏がスカートの裾を引っ張り、生白い太ももを隠した。 よろよろと立ち上がった宇津木をマコトは強引に引き寄せる。 かと思うと、彼女のその軽い体を教室の後ろのロッカーまで投げ飛ばした。 マコトは床を転がった宇津木を見もせずに、彼女の席のイスと机を整えると、そこが己の場所だとでも言うようにどっかりと座った。 そして、いつの間にか固唾を飲んで自分達をみていたクラスメイトを視界に映し、不機嫌をたっぷりと滲ませて舌打ちをした。 誰かの怯えた声がした。
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