1.群衆は異端の入り口に触れる

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やがてチャイムが鳴り、教師がやってきた。幸か不幸か、誰も先ほどのマコトの所業を口にすることはなかった。 教師は妙に静かなクラスの雰囲気に違和感を覚えたような顔をしたが、結局そのことには何も触れず、授業を始めた。 数学だった。教師は五分ほど、自分の紹介に時間を使った。 教師は入学して最初の実力テストだといい、プリントを配った。 マコトに紙を渡すために振り返った男子生徒の顔は強張っていた。 マコトは受け取った二枚のプリントのうち一枚を机に仕舞う。 少しして、教師が「全員に回ったか?」と聞く。後ろから「あの、」とやはり消えそうな声がした。 宇津木は元はマコトの席だった場所に座っていた。自分の席を取られたので仕方なくだろうと、誰もが納得し気の毒がっていた。 震えながらあげられた手に教師は気付き、プリントを彼女に渡していた。 マコトはそれを横目で見て、つまらなそうに反対側、窓の外に視線をやった。 入学してすぐの授業は、だいたいどの教科も実力テストだ。 受験勉強で得たものは春休みのうちに消えるのが常である。マコトは恐らく明日には戻ってくるテストの点数を気にしていた。 しかしすぐに、そんなものはもう自分には関係ないと結論を出す。 授業終わりのSHL(帰りの会)が始まろうとしていた。
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