1.群衆は異端の入り口に触れる

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終業とともに、宮尾は教室から去っていった。 なんとはなしに続いていた緊張から解き放たれ、少しずつ生徒らは賑わいを取り戻したようだ。 スマートフォンを取りだし新しい友人と繋がるもの。雑談に興じるもの。 さまざまいるが、宇津木はその喧騒に紛れ、そっと教室から出ていった。 マコトは宇津木を追わなかった。イスに腰かける体をだらりと伸ばし、足を机の上にあげ、ぼんやりと時間が過ぎるのを待つ。 腹が減ったな、と思った。 昼飯は宇津木の持ってきていた弁当を奪ったわけだが、あんな小さな玉子サンドふたつでは到底、高校生男子の腹を満たすはずもない。 教室にすっかり人がいなくなってから、ようやくマコトは席を立った。 校舎を出る。グラウンドを陸上部が使用しているのを少し眺めてから、マコトは裏門を出た。 学校の裏はすぐ山になっている。進入禁止のロープをくぐり暗い山道をのぼると、マコトが朝に置いた自転車があった。 母親が出ていってから実質一人暮らし状態になっているアパートに、20分ほど自転車を漕いでたどり着く。 よく晴れた日だ。夕焼けを背景に携えたボロボロの木製アパートはまるで廃墟のようだった。 置き場に自転車を停め、マコトは吹きさらしの外階段をカンカンと二階まであがった。 外廊下を歩く。住居の前に、はたしてそれは、居た。 薄汚れた白いそれは、膝まですっぽりとパーカーをかぶせて体育座りをしている。 「チッ…」 マコトが舌打ちをしてやると、それは緩慢に顔をあげた。
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