偽善防止法

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 私が何をしでかしただって? 私のようなアウトローになると思い当たる節はいくらでもある。たとえば数日前、横断歩道を渡れず困っている老人を助けたことがある。一週間ほど前に路上の空き缶を拾ってゴミ箱に捨てたこともある。路上清掃程度の罪なら罰金とお小言程度ですむかもわからないが、老人を助けたことが密告されたとすると少々厄介である。  私はトレンチコートから葉巻を取り出し一服味わった。至福の吐息を紫煙とともに吐き出し、肩をすくめてみせた。 「よし同行しようか。ただし事情徴収は若い女Gメンを指名するぜ」  偽善防止法が可決される背景には、人々の偽善に対する嫌悪感があった。そしてインターネットの普及がその嫌悪感を決定的なものにした。ネットは高潔な理想を語る政治家や善人ぶった慈善家たちの裏の顔を容易に暴き出し、検索という道具は、時間による風化や、水に流すといったことを困難にさせた。電子掲示板は嫌悪感情を増幅させ継続させる機能を果たした。  民意が醸造されると、あとはカリスマ的政治家が一人いればいい。  こうして偽善防止法は可決された。  
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