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抜けるような青空の下でのピクニック。
満天の星空の下での夜桜見物。
君の名前を呼ぶと、君が微笑んで返事をしてくれる。
それだけのことが、嬉しくて、楽しくて。
そしていざとなると照れてしまって、俺は肝腎なことを何も言い出せないままでいた。
三度目の雨は、夕立のように急に降り出した。
通りすがりの店舗の軒先に駆け込み、雨宿りをしていたけれど、止みそうになかった。
『駅まですぐだから、走りましょうよ』
肩を半分濡らした君は、楽しそうに俺を見上げて、そう言った。
『そうだな。じゃ、行くか』
狭い軒先から、俺は君の手を取って、駅までの道を駆け出した。
水溜まりを跳ね、上がる飛沫を子供のように叫んで避けながら、駅に駆け込んだ俺達は、手をつないだまま、息を弾ませ笑い合った。
濡れた肩も何だか暖かくて、雨に包まれているような気がした。
初めてつないだ手を離し難くて。
いつもなら改札口で君を見送るのに、その日俺はホームまで入って、君の乗る電車を一緒にベンチに座って待った。
電車が入って来る。
『それじゃ、またね』
ベンチから立ち上がり、俺の手を離そうとした君が、どこかへ消えてしまうような気がして、
思わず俺は、君の手を引き寄せ抱きしめていた。
ホームで君を抱きしめて離さない俺を、『もう!』と君は真っ赤になって睨んだけれど、なぜだか俺は、その時少しも周りが気にならなかった。
君は結局電車に乗り損ね、
最初は膨れていたけれど、そのうちクスクス笑い始め、俺達は手をつないだまま、次の電車を待った。
『これからも、ずっと俺と付き合って欲しい』
そう言った俺に、君はまた赤くなって、
『うん』と頷いた。
雨が降るたびに君を近くに感じられることが嬉しくて、
俺は、君と会える日には空を見上げ、なんとなく雨を願うような気分になった。
それから何度かの約束の日は、晴れていて、せっかく気持ちを打ち明けたのに、意識してしまった俺達は、また以前に戻ったようなデートを重ねていた。
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