おいらはおいらん

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「こら。タカコや。また抜け出そうとしたのか!」 「あっ、じいさん!」 (また、見つかっちゃった…) 私の名はタカコ。 貧しい村に生まれ、口減らしとして吉原に送り出されて来た。 まだ小さい私は花魁付きの禿(かむろ。ハゲじゃない)として 先輩花魁・マサさんの世話をしているんだけれど… 「本当にお転婆な娘だなあ」 「もう!ちょっとくらい見逃してくれたっていいじゃないのっ」 「ちょっとと言ってそのまま帰ってこないつもりだろう?」 「…」 「いいかい。君はね、家族に売られてここへ働きにきているんだよ。 お勤めを果たさないうちから逃げ出してしまったら、 その賠償金は家族が支払わなければならない。 そんな迷惑をかけてしまってもいいのかな?」 「…私を売った両親のことなんて、どうなったっていいわ!」 口減らしと言えば、たいてい兄弟の多いところから売りに出されるもの。 でも、私は一人っ子。 じゃあなんで私が売られてしまったのかと言うと、 飼っている馬の方が所有価値があったからだ。 両親は、女に産まれたゆえに家督を継げない私より、 その辺で捕まえてきた馬をサラブレッドに育て上げた方が金になると踏んだらしい。 「私より馬を手元に残した親のことなんか…」 「タカコ、辛い思いをしているのは君だけじゃないんだよ。 たとえば、君の住んでいる『ニノ廓(にのくるわ)』の隣の店では 白井って子が勤めているだろう?」 「ああ、そんな名前の子がいるとうわさには聞いてるけど」 「あの子は祖国でスパイ活動をしていたんだけどね、 敵に顔を見られてしまってもう組織では働けないからと、お払い箱になったんだ」 「え!そうなの?!」 「彼女は暗殺者に追われる身となり、泳いでこの国まで渡ってきた」 「恐ろしい身体能力ね」 「けれど金を持ち合わせていなかったから、遊郭へ身を沈めたってわけさ」 「…そういう身の上を聞くと、私の悩みが小さなものに思えてきたわ」 「じゃあ、タカコ。 店の人に見つかる前に戻るんだよ」
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