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でも夫は結婚当初から、一緒に街を歩くことも近所に買い物に行くことすらもなかった。
旅行もそう。
新婚旅行でフランスに行った以降は、ただの一度も二人で旅行はしていない。
女友だちとの旅行などは、行ってきなさいと快く認めてくれるけど、とにかく夫婦で一緒に行動する気がないのが私の夫だった。
そんな夫だから、妻を見て日常的に「かわいい」なんて言うわけもなく。
「本当はさ、俺に会いに来たんでしょう?今日もいるかなみたいな」
突然、金井さんが言った。
図星だ。
しかし、そうだとは言えるはずもない。
「自意識過剰なんですね」
私は冷静を装って言う。
金井さんは可笑しそうに笑った。
「そうかもね。でも、自意識過剰っていうか、そうだといいなっていう願望かな」
「流石は記者さんですね。口が上手だわ」
「ありがとう。でも、本心だよ。俺、わかなさんにまた会いたいなって思ってたんだ」
「もうっ。あんまり、からかうなら帰りますよ!」
「からかってるわけじゃないってば。本気も本気だって」
怒る私に、金井さんは真顔で答えた。
あんまり真剣な目で見つめられて、私は言葉を詰まらせた。
「わ、私、結婚してるから……」
「昨日、聞いたから知ってるよ。でも、独身かどうかじゃなくて、会いたいかどうか。で、俺はわかなさんにまた会いたかった」
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