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心地よい風が木々の間からそよぎ流れ、名も知れない野の花がそちらこちらに咲いている。高原の避暑地にでも遊びに来ているような、穏やかな時間だった。
あまりに心地が良く、そのまましばらくの間、目を閉じて風を感じていた。
「隣、いいですか?」
ふいに声をかけられて、びっくりして目を開ける。
目の前に若い男の人が立っていた。
オフホワイトのパーカーにジーンズ、イヤホンに使い古したショルダーバッグ。
ダークアッシュの髪はソフトにドライパーマがあたったツーブロックのマッシュ。
顔は、上品で優しそうなきれいな顔立ちだ。
「あ、ごめん。驚かせちゃったかな。いつもここで仕事するのが日課で」
そう言って、バッグからノートパソコンを取り出して見せた。
「ごめんなさい。ここはあなたの席なのね」
慌てて立ち上がろうとするのを、すっと差し出した掌で制された。
「公園のベンチだから、誰が座るのも自由でしょ?気にせず座ってていいよ」
「あ、はい」
そのあまりに自然で流麗な仕草と穏やかでフレンドリーな言葉の響きに、立ち上がりかけた腰を再びストンとベンチに降ろしてしまった。
彼もカバン二つ分くらいの距離を開けて、私の隣に座った。
膝の上にノートパソコンを置いて、慣れた手つきでキーを叩く。
時折、考え込むように口元に手を当ててジッと画面を眺め、またカカカカとすごい速さでキーを打つ。
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