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凄い近い距離に顔があったことに気がついて、慌ててノートパソコンの画面を覗き込んでいた上体を起こした。
「わ、わかりました。ありがとうございます」
私が礼を述べると、彼はおかしそうに微笑する。
「キミ、おもしろいね。名前は?」
「えっ?土田です」
「下の名前は?」
「わかな……です」
「わかなさんか。いい名前だね。俺、金井光司」
私は、無言で肯く。
いくら少しくらい美形だとは言え。ちょっと馴れ馴れし過ぎる。
こう見えて……いや、どう見えているかはわからないけど、人妻だ。
考えてみれば、見知らぬ男性と二人きりで公園のベンチに座って語らっているのは、いささか不謹慎だ。誰かに見られてあらぬ疑いをもたれても困る。
私は、立ち上がって、金井と名乗った彼に一礼した。
「私、そろそろ行かないと。主人が帰る前に夕食の支度とかしないといけないので」
私は、わざと「主人」という言葉を口にした。既婚者だというアピール。
「そう。じゃあ、また」
彼……金井さんは、特に驚くような様子もなく、にっこりと微笑んで手を振った。
素っ気ない反応。
考え過ぎだったかしら。
私、もしかして、自意識過剰!?
少し恥ずかしくなった私は、逃げるように帰宅した。
あの人の好きなもの。
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