解放

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生姜の効いた唐揚げ、タコとキュウリの酢味噌和え、なめらかな食感のポテトサラダ、じっくり煮込んで味のよく滲みた田舎煮。豆腐とワカメ、青ネギのお味噌汁。 食卓に並んだそれらを眺めながら、ため息をつき、頬杖をついたまま壁掛けの時計を見る。 午後九時半を過ぎていた。 何となく心がざわめく今日は、できれば一緒に夕飯を食べたかった。 たとえ、気難しい顔をした、たいした会話もしてくれない夫でも。 翌日。 ルーチンワークとなっているジョギングが、なぜかいつもよりワクワクしていた。 金井さん。今日もあそこにいるのかしら。 そんなことを考えながら、公園の近くに差し掛かる。 立ち寄るべきか、素通りするか。 昨日と違って、立ち寄る理由はない。 でも、何となく気になってしまう。 確かめるだけ。ほら、ちょっと喉も渇いたし! 私は自分に言い訳しながら公園の奥へと向かった。 深緑の広葉樹の立ち並ぶ小径を抜けていくと、昨日、ジュースを買った自動販売機が見えた。 その前にあるベンチ。 そこには、ノートパソコンを膝に乗せて仕事に没頭する金井さんがいた。 「いた」  私は思わず呟いた。 彼は今日はそこにいたけれど、さて、この先どうしよう。躊躇する気持ちを納得させるように、 「挨拶くらいして行った方がいいかな」  呟いてみた。 声に出してみると、なんだかそうしないのは失礼な気もしてきて、私はゆっくりと歩を進めた。     
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